メフィスト賞。一味も二味も違う新人賞のおすすめ受賞作品

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 京極夏彦は、作家デビュー前、友人らとデザイン事務所をやっていたという。

 バブル崩壊の影響を受けて仕事が少なくなった彼は、職場で暇つぶしのために小説執筆を始めた。そして、せっかく書き上げたのだからと、その原稿は講談社に送られ、その作品『姑獲鳥の夏』は、編集部に衝撃を与えて即座にデビューが決まり、さらには、日本一尖った文学新人賞「メフィスト賞」が創設されるきっかけとなった。

 そのため、京極夏彦は、一味も二味も違う新人賞であるメフィスト賞の第0回受賞者と呼ばれることがある。

 メフィスト賞はそういう経緯で生まれたために、下読みなしで編集者が読んで気に入りさえすればすぐさまデビューが決まる、今までにない新人賞としてスタートを切り、おもしろければどんなものでも受け入れるという懐の広さを見せ続けてきた。

 記念すべき第1回の受賞作品となったのは、京極夏彦同様独自の世界観を持つ森博嗣の『すべてがFになる』だった。

 続く第2回は、さらなる独自の世界観を持つ清涼院流水の『コズミック 世紀末探偵神話』が受賞した。

 この『コズミック 世紀末探偵神話』の出版から始まった清涼院流水のJDCシリーズは、きわめて特異で、その異質さを挙げ始めたらきりがない。

 それぞれに能力を持った名探偵がぞろぞろと登場し、「読者への挑戦状」ではなく「読者への挑発状」が付され、さらに作者本人は、小説家ではなく大説家を自称する。

 謎の提示から事件解決に至るまでミステリーの枠組みを破壊しかねないその作品を引っ提げて推理小説界に登場した清涼院流水は、デビュー当時ずいぶんと先輩作家たちから叩かれたようだ。

 しかしながら、『コズミック 世紀末探偵神話』から始まるJDCシリーズがあらゆる意味で規格外の作品だったからこそ、批判した先人もいれば、第19回受賞者の舞城王太郎(『煙か土か食い物』)や第23回受賞者の西尾維新(『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』)のように、影響を受けた後進の作家もいた。

 その二人、西尾維新と舞城王太郎は覆面作家だが、メフィスト賞受賞者には覆面作家が多い。覆面作家輩出率が高いのは、メフィスト賞が授賞式を行わない新人賞だからだろうか。作家になりたいけど、目立ちたくない顔を出したくないという人は、メフィスト賞受賞を目指してみてはどうだろうか。

 第三回受賞作は蘇部健一の『六枚のとんかつ』。

 六とんは、島田荘司のあの名作にインスパイアされた作品。

 突き抜けたバカミスだ。

 第0回から第3回までの受賞者受賞作の並びを見るだけでも、この新人賞のアクの強さ、なんでもありさ、強烈さ、とんでもなさが伝わってくる。

 最近のメフィスト賞でちょっと残念に思うのは、枚数制限なしだったメフィスト賞が、「1行40字×40行で85〜180枚」と枚数指定されるようになったことだ。

 賞創設のきっかけとなった京極夏彦が新人賞ではなく出版社に直接送ったのも、既存の新人賞に送るには長過ぎたからだろうし(『姑獲鳥の夏』は、シリーズ二作目以降の分厚さによって目立たないけど、多くの新人賞の規定オーバーなほど長大な作品だ)、レンガ本のメフィスト賞受賞作が見られなくなったのは寂しい。

 枚数制限なしは、メフィスト賞の一つの特徴で、枚数無制限だったからこそ、辻村深月が学生時代から社会人時代にかけての長期間で書き上げた大長編『冷たい校舎の時は止まる』も、メフィスト賞受賞作の一つとなった。枚数無制限なメフィスト賞がなかったら、ミステリーの手法を用いたこの青春小説の出版もなかっただろう。

 デビュー作というのは、作者の本質的な部分が色濃く出てくるものだと思う。だから、自分は、作品を読んでみて(この作家好きだな)と思った場合は、デビュー作も必ず読むようにしている。デビュー作は、作者本人はもちろん、受け手である読者にとっても、特別ななにかを持っているものなのだと思う。

 本って、どうがんばっても読み切れないほどにたくさんある。だからこそ、好きな作家と出会った時に、深く掘り進める必要があるのだと思う。掘り進めた一番奥深くにある一番重要な作品こそが、デビュー作なのだろう。

 

 京極夏彦と同じように、作家デビューの経緯がほかの人とは大きく違っている歌野晶午のデビューの話はこっちに書いてます。

http://kyo-novel.jugem.jp/?eid=49

 メフィスト賞第50回受賞作早坂吝の『○○○○○○○○殺人事件』については、こっちの記事に書いていて、ミステリー作品のタイトルについて語ってます。

http://kyo-novel.jugem.jp/?eid=13

 最後に、上で紹介したメフィスト賞受賞作を、創設のきっかけとなった第0回から順に並べておきます。

 

 第0回 京極夏彦『姑獲鳥の夏』

 第1回 森博嗣『すべてがFになる』

 第2回 清涼院流水『コズミック 世紀末探偵神話』

 第3回 蘇部健一『六枚のとんかつ』

 第19回 舞城王太郎『煙か土か食い物』

 第23回 西尾維新『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』

 第31回 辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』

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