『七つの会議』池井戸潤は会議を書き会社の罪を浮かび上がらせる

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 最初の会議は中堅電機メーカー東京建電の定例会議。

 毎週木曜日の午後二時から行われるその定例会議は、営業二課課長の原島万二にとって悩みの種だった。

 営業部長の北川から叱責されることが約束されているからだ。

 冷蔵庫や洗濯機などの白物家電を取り扱う営業二課は、利幅が薄く景気に左右されやすい。夏が過ぎエアコン需要が落ちセールスが伸びないこの時期は、目標未達を責める上司の声はより一層激しくなる。

 原島が率いる営業二課の社員たちは皆がんばっていた。にもかかわらず目標を達成できないのは、ノルマが厳しすぎるからだ。

 その文句を飲み込み腹の中に溜め込みながら、北川の厳しい言葉にじっと耐えるしかなかった。

 北川の怒声が飛ぶ緊張感あふれる会議にもかかわらず、不遜にも会議中居眠りする男がいた。それが八角民夫という男だった。

「居眠り八角」と呼ばれ、会議中当たり前のように居眠りする五十歳の万年係長八角民夫は、北川と同い年で同期入社だった。彼が恐れを知らず北川の顔色を窺わず、会議中に眠りこけることができるのは、北川と同期だからということや出世街道からすでに外れてるため以外に、もっと大きな理由があった。

 北川は八角に、なにか大きな借りがあるのだという。そういう噂を原島は人から聞いていた。その借りのために北川は八角に頭が上がらず、怒れないのだという。

 そんな営業一課係長の八角に、ついに直属の上司である一課長の坂戸宣彦が怒りの声を上げた。三十八歳の営業部のエース坂戸は、いつもいつも会議で居眠りして自分を手助けせず、会議に必要な資料作成も部下に押しつける怠慢極まりない年上の部下八角に、溜まりに溜まった鬱憤をぶつけた。

 その様子を見ていた原島も、彼が怒るのは無理もないと思った。

 ところが――

 坂戸は、八角によって、社内委員会に訴えられてしまったのだ。

 会議後に怒りをぶつけたあのときから、確かに坂戸の八角に対する態度はきついものになっていた。とはいえ、パワハラ委員会にかけられるほどのものだろうか?

 そう原島は疑問に思ったが、パワハラ委員会の裁定は予想に反しクロだった。その後坂戸は、役員会によって「人事部付」が決定され、課長職から追いやられる処分となり、坂戸本人は退職の意志を固めていた。

 その坂戸の代わりに「花の営業一課」の課長となった原島は、そのことを素直に喜べないでいた。ほかの社員同様原島も、理不尽な人事に納得できない思いを抱いていた。

 坂戸の処遇は、あまりに不可解だった。なぜ今まで営業部に多大な貢献をしてきた坂戸にあんな仕打ちをするのか。会社は何を考えているのか?

 原島は、直属の部下となった八角との面談で、彼が怠惰な社員になるきっかけとなった悲しい過去を知る。会社の理不尽さを感じさせられていた原島は、その八角の話に共感を覚えた。

 だがそれでも、坂戸をパワハラで訴えたことには納得がいかなかった。

 そのことを問うと、八角は「坂戸を許すわけにはいかない理由があった」と答えたが、その理由を明かさない。

 知る権利を主張した原島に対し、ついに八角は口を開いたが、「知らないほうがいい」と忠告していた八角の言葉通り、原島はその話を聞いたことを後悔し打ちのめされることになった。

 会社は大きな罪を犯していた。

 そのことを池井戸潤は、大阪の「ねじ六」経営者の兄妹の経営会議、東京建電の計数会議、カスタマーレポート(東京建電に届くクレームをまとめたもの)を作成するためのカスタマー室の編集会議、東京建電の親会社のソニックで開かれる御前会議(ソニック社長の徳山郁夫を交えて行う打ち合わせを役員の間ではそう呼んでいる)といった会議を書くことによって、薄利多売なネジ製造業者に対する下請けいじめから始まった会社の不祥事を浮かび上がらせていく。

 タイトル通り、作品の舞台となる会議を変え、それによって視点も変わることで、それぞれの思惑の衝突を描き、中堅メーカーの罪に多方面から光を当てた。そして、読者の目に浮かび上がる東京建電の罪は物語が進むにつれて大きくなり、罪の重みを感じさせていく構成となっていた。

 そうすることによって、会社に焦点を当てた重厚なクライムノベルとして成功を収め、確かな読み応えを提供していた。

 それこそが池井戸潤による長編小説『七つの会議』だ。

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